淡口醤油
「淡口醤油」と書いてなんと読むでしょうか?と急に聞かれたら、「あわくちしょうゆ」とでも読んでしまいそうですが、これで「うすくちしょうゆ」と読みます。意外と知られていないこの漢字表記。JAS規格(日本農林規格)によって5種類(濃口醤油・淡口醤油・たまり醤油・再仕込醤油・白醤油)に分類されている醤油の1つ、関西生まれの「淡口醤油(うすくちしょうゆ)」はこのように表記されます。この「淡口」は、醤油の色のうすさを表しており、決して塩味がうすいという意味ではありません。見た目では関東生まれの「濃口醤油」の方が塩辛そうに思われますが、実は「淡口醤油」の方が2%ほど高めに造られており、特徴の1つと言えます。
何かと比較される関西の「淡口醤油」と関東の「濃口醤油」ですが、造りに関して言えば、風味付けのために、淡口醤油の方には甘酒や米麹を加える場合がある、ということくらいで、原料の割合や基本的な製造工程はほぼ一緒です。蒸した大豆と炒って砕いた小麦に麹菌を生やして醤油麹を造り、塩水を加え、撹拌を繰り返しながら醪(もろみ:醗酵中の液体)を醗酵、熟成させていく、という流れです。醤油の種類によっては、醤油麹の原料となる大豆と小麦の割合が極端に異なるものもありますが、淡口も濃口もどちらもほぼ同量の1:1で造られます。醪の醗酵、熟成期間が終わり次第、圧搾します。圧搾しただけの醤油は「生(き)揚げ醤油」と言い、基本的に市場に出回ることはほとんどありません。通常は圧搾後、調整や火入れ、濾過を行い充填し出荷されます。因みに、この過程で火入れを行わなければ「生(なま)醤油」となります。
濃口醤油とほぼ同じ工程で造られる淡口醤油ですが、名前通りの淡い色に仕上げるために、実は様々な工夫が施されています。
醤油の着色は主にメイラード反応によるものです。メイラード反応とは、糖、アミノ酸、熱の2種及び3種が結び付くことで褐色物質(メラノイジン)を作り出す化学反応のことです。醗酵が進むと、醤油の原料である大豆のタンパク質がアミノ酸に、小麦のデンプンがブドウ糖へと分解され、それぞれの成分が結びつきメイラード反応が起こります。醗酵は冬より夏の方が速く進みます。このように気温や品温が高くなると醗酵スピードが速まるため、メイラード反応も活発になり色が濃くなっていきます。また空気に触れることでも着色は起こります。着色の影響を抑えたい場合、醗酵期間を短くする、醗酵スピードを下げる、温度を下げる、空気接触を減らす、などの工夫が必要になるため、うすい色に仕上げたい淡口醤油は、醗酵、熟成期間を濃口醤油の半分以下、3ヶ月ほどで仕上げる、低温で醗酵熟成させる、塩水量を増やす、醪の撹拌回数を減らす、濃口醤油よりも火入れ温度を下げる、などの工夫が施され造られています。
このようにして造られる淡口醤油は、江戸時代、兵庫県龍野で生まれ、そこから京都、大阪へと伝わっていきました。そして今もなおこの地方で大切に育まれています。関西の食文化は、食材の持ち味を活かし出汁の風味や彩りの美しさに重きを置く文化です。その一端を担っているのが淡口醤油と言っても過言ではないでしょう。少量でしっかりと塩味が入り、出汁の風味や食材の味を引き立たせ、素材本来の色味を引き出してくれるのが淡口醤油です。関西の食文化を支え続ける大切な醗酵調味料です。